貧農史観を見直す―新書・江戸時代〈3〉 (講談社現代新書)



貧農史観を見直す―新書・江戸時代〈3〉 (講談社現代新書)
貧農史観を見直す―新書・江戸時代〈3〉 (講談社現代新書)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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具体例がほしい!

各地のいろいろなお祭りの記録を見たり民俗の本を読むと、江戸時代の日本の農村って本当に貧しかったの??という疑問をずっともっていました。この本では数値や資料を使ってやはり同じ疑問を投げかけていると思います。でも、できればもっと具体的な事例が欲しかったです。この本では「農書」の説明のところにちょこっとあるだけ、私としては衣食住や生活に関しての具体的なお話を期待していたのですが‥‥。残念です。
もしかして、そういう具体的な例は民俗学の分野なんでしょうか?歴史学の分野だと農書の研究をしている人が本を書くと具体例があがるんでしょうか?
そういう本があるとおもしろいかも。

タイトルは「江戸時代の農民」とすべき

ちょっと変わった本。というのも表紙に著者が2名列記されてたので共著かと思いきや、プロローグのみ別の人が書いてる。しかもこの本、「はじめに」がないから、著者がこの本で一体何を明らかにしたいのかがわかりづらい。タイトルに書かれた「貧農史観」がいつ出てくるのかと思いながら読むもなかなか出てこず。結局言及箇所は4章立ての中で「3章」のみ。そのほかの3つの章は定説をだらだらと述べて(日本史で習ったことと食い違ってる点も多々あったんだけど…)頁数かせぎっぽい?
ただ評価できるのは、3章で、なぜ「貧農史観」という一種の思い込みが生じたかを述べている点(というか述べてくれてないと困る)。その原因を研究過程での史料の偏りであるとした点は興味深かったし、データを出して、実際に農民がどれくらいの家計収入で生活してたかがわかる。ただ農民が貧しくなかったということを証明するには、その当時の他の身分(武士、商人、えた・ひにん等)と比較しないと説得力がない。おそらく著者が農業史の専門のためそのあたりを研究していないのだろうが、この内容だと「貧困史観」を覆すことはできておらず、「貧困史観」の例外があると挙げたのみであり、期待していたほどのおもしろさはなかった。3章のみおもしろかったのでちょっと甘めに☆3つ。

まずは読んでから…

「貧農史観」の打破…それはこの本の主題である。

 だがそれ以上に大きいのは、この国は「農」という文化を基層になりたっているということである。それは都市生活者とてかわりがない。都市生活者も塵芥や屎尿を還元することで、新たな開墾が難しいこの国の農業に大切な「地力」を維持して…「連環」を形成していたのだ、ということを示唆していることが、本書が現代に突きつけるもっとも大きなテーマだとおもう。

 それを断ち切ってしまったのはGHQの政策であり、そしていま新自由主義者がいう「市場の開放」だったり「自由化」だったりしている。その末路は…ここでは書かない。冷静に考えてみて欲しい。
 …供給先だったはずの国が、人口増加で需要増大した場合、はたしてどうなるか、を。日本の売る余裕が本当にあるのか、を。金があれば売ってくれるのか、を。…そして、その金が生み出せるほど、日本がこのまま成長を維持できるのか、を。
タイトルの観点が忘れられている

「江戸時代の農民は、朝から晩まで身を粉にして働いたにもかかわらず、収穫物のほとんどを年貢として持って行かれてしまい、代官に盾突くことも許されず、常に貧しく暮らしていた」などと言う思い込みは、本書を読めば払拭出来るだろう。しかし、農政や農民生活、農業技術など、江戸時代の農業一般を述べている感が強く、「貧農史観を見直す」を言う観点が忘れられているように思う。例えば、18世紀後半以降、農民の休日が年80日に増加したケースもあるとのことだが、農村以外でどうだったのかは示されていない。また、神社仏閣への参詣や物見遊山の旅行なども活発に行ったらしいが、武士や商人と比べた場合、恵まれていたのかそうでなかったのかもわからない。つまり、その時代の中でどういう位置にいたか、他の職種の人たち比べどうだったのかが示されていないのである。よって評価は☆3つとする。豊かか貧しいかは相対的に評価すべきことだと思う。
『目から鱗』の江戸のお百姓の真実

英国では今も農民=ブルジョア階級であって、労働階級の敵である。また昔のロシアなどでは農民は地主に隷属させられる「農奴」であって、まさに貧窮に喘ぐ人々の代名詞。学校やマスメディアから私たちが教えられる江戸時代の農民観は、これら外国製マルクス主義の怨念(?)によって色づけされており、日本人にとってはどこか違和感を覚えさせる。

良い例が「慶安の御触書」である。英米の左翼歴史学者によって「幕府が農民を締め上げ、重税を課すための禁令書」などと紹介されることが多く、日本の学校で教えていることもこれと基本的に大差は無い。しかし実際の『お触れ』の内容は、倹約・節約を奨励し、家族仲良く健康に留意してきちんと一定の年貢を納め、少しでも豊かになるよう農作を工夫し、しっかり働くように、と当たり前のことをいっているだけで、「江戸時代の教育勅語」的役割を果たしていたとも思われる。

問題の「重税」についても、その実態は「貧窮史観」から程遠い、むしろ「天下のお百姓」側に有利な税制であったようである。一旦検地を受けて年貢のみなし高が決められると、その後に開発された新田からの収穫や年貢の対象である米以外の農作物には税が掛らないからそれを売って得た収入は丸々農民のものとなる。しかも、検地をしようとしても農民が「一揆を起こすぞ」と脅しただけで責任問題(領主が切腹させられることもあった)に発展することを恐れる領主は検地をあきらめざるを得ない。かくして貧窮していたのはむしろ幕藩領主の方であった。

江戸文化は庶民の文化である。農書などの普及にみられる農民・町人の識字率の向上、農業技術の発展などによる、人口の9割を占める農民・町人の経済発展がなかったら、あのような消費文化・余暇文化としての芸能・芸術の発展もありえなかったであろう。本書は一次資料を綿密に検証し、左翼学者の空想的「貧農史観」を根本から覆した、真の『目鱗本』である。



講談社
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